ニジマスの白血球にも血液型がある


[要約] ほ乳類において,白血球の血液型を支配し,かつ免疫系で重要な働きを持つ主要組織適合性抗原複合体(MHC)クラスI遺伝子をニジマスから単離し,その特徴を明らかにした。

養殖研究所・病理部・免疫研究室

[連絡先]0596-58-6411

[推進会議]水産養殖

[専門]病理

[対象]さけ・ます類

[分類]研究


[背景・ねらい]

 現在,多くの水産養殖場で魚病が多発して深刻な問題となっており,養殖魚における耐病系統の樹立が強く求められている。しかし,今のところ,水産育種において疾病抵抗性の有用な指標はなく,耐病系統の開発は進んでいない。白血球の血液型を支配する主要組織適合性抗原複合体(MHC)は,鳥類やほ乳類では疾病抵抗性と関連していることが知られている。そこで,このMHC遺伝子に着目し,ニジマスの各個体の白血球型と疾病抵抗性の関連を明らかにすることを目的として研究を行っている。

[成果の内容・特徴]

1.ニジマスから白血球型遺伝子(MHCクラスI遺伝子)の単離に成功し,ニジマスにおける白血球型の存在を明らかにした。

2.mRNAおよびモノクローナル抗体を用いた解析の結果,本遺伝子は,ほ乳類と同様に,末梢白血球,上皮組織,頭腎,脾臓,胸腺で強く発現していた(図1)。

3.ヘテロ接合体ニジマスからは1または2個の,ホモ接合体ニジマスからは1個のみの対立遺伝子が検出される(図2)などの結果から,ニジマスでは白血球型の遺伝子座は1つであり,3つの遺伝子座を持つヒトやマウスなどのほ乳類と異なることが明らかになった。なお,ホモ接合体(クローン)は長野県水産試験場から分与された。

4.ニジマスもほ乳類と同様に,多数の白血球型を持つことが明らかになった。現在までに17種類の対立遺伝子を単離しA〜Iの9個にグループ分けした。

5.本所の日光支所で継代飼育されているニジマスの各主要系統は,特徴的な白血球型組成を示した(図3)。

[成果の活用面・留意点]

1.ニジマスを白血球型によって分類することに成功した。これにより,白血球型と疾病抵抗性の関連について調べることが出来るようになった。

2.当面,ニジマス養殖で最も被害が大きい疾病であるIHN(伝染性造血器壊死症)に対する疾病抵抗性について研究を進める。

[具体的データ]

図1 ニジマス白血球型抗原の魚体内分布

図2 サザン解析による白血球型遺伝子の検出

図3 各系統における白血球型遺伝子の頻度


[その他]

研究課題名:ニジマスMHC遺伝子の多様性及び機能の解析に関する基礎研究

予算区分:生物系特定産業技術研究推進機構との共同研究(抗病性産業動物)

研究期間:平成11年−15年

研究担当者:乙竹 充・J. M. Dijkstra・桐生郁也・吉浦康寿

発表論文等:(1) Classical MHC class I gene composed of highly divergent sequence lineages share a single locus in rainbow trout (Oncorhynchus mykiss). J. Immunology, 168, 260-273, 2002. (2) MHC class I restricted cytotoxicity in rainbow trout, Oncorhynchus mykiss. Dev.   Com. Immunol., 24, Supl. 1, 76-77, 2000. (3) Exogenous antigens and the stimulation of MHC class I restricted cell-mediated cytotoxicity: Possible strategies for fish vaccines. Fish & Shellfish Immunology, 11, 437-458, 2001. (4) Cytotoxic T cell function in fish. Dev. Com. Immunol., 26, 131-139, 2002. (5) The function of the most primitive MHC class I . Dev. Com. Immunol., 24, Supl. 1, 79-80. 2000.